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第59回 (1月号)
マダム・ロゼット
by 柴田耕太郎
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 文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳を取り上げ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページに満たない短いものだから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に、市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
 今回取り上げるのは、『飛行士たちの話』(早川書房、永井淳訳)より『マダム・ロゼット』Madame Rosette

誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
マダム・ロゼット
(p81) **
「もうしたさ。お前がウイスキーを買いに行ってるあいだにかけたよ。一人もいなくなっちまった。ついてないよ」
‘I’ve done it. I did it while you were getting the whisky. They’re all gone. It isn't any good.’

(解説) 知り合いの女の子に電話をしろ、といわれての応答。get は意味範囲が広いが、ここは「買う」でなく「飲む」の意味。前の場面では、相棒がウイスキーを片手に一時間のんびり湯船につかっている。それに対する皮肉も交えた台詞。

(訂正)お前がウイスキーを飲んでいるあいだに
(p87) **
地上では疲れきった人間のように動作が緩慢で、ねぼけた子供のように頭の回転も鈍かったが、いったん空に飛びあがると、頭の回転も動作も別人のようにてきぱきして、神経の反射作用を思わせた
On the ground he moved slowly and lazily like a tired person and he thought slowly and lazily like a sleepy child, but when he was up in the air his mind was quick and his movements were quick, so quick that they were like reflex actions.

(解説)theyhis mind(彼の精神→思考力→頭の回転)とhis movements(彼の動作)。ここは、頭と体の動きが一体化していること。その様がreflex actions「(意識せずに起こる)身体反応」のようだ、といっている。「神経の反射作用」では何に対する?どんな?が問われてしまう。

修正訳:
天性の条件反射能力が身についているかのようであった。
(p88) **
つまらないことには我慢できないたちらしい。
Obviously this was a woman who stood no nonsense.

(解説)誰だって「つまらないことには我慢できない」だろう。ここは「バカな真似は許さない」の意味。

修正訳:
ふざけた真似をしたら只ではすませない、といった
(p91) **
「スタッフィはたいそう心やさしい人間だったので、厄介なことを始めてしまったのではないかと心配になってきたのだ。
He was really a gentle person and now he was feeling worried about having started something which might become complicated.

(解説)gentle は意味範囲が広く、前後の文脈で訳語を選ぶしかない。ここは「おとなしい」「穏やかな」ぐらいがふさわしいだろう。really は強調で全文修飾「実に」「まったく以て」。

修正訳:
なにしろ穏やかな性質(たち)なので
(p105)
スタッフィがいった。「おい、助けだしてやったら、女たちは喜ぶだろうな?」 「やれやれ」と、スタッグがいった。「きっと大人数になるぜ」
Stuffy said, ‘Oh, won’t the girls be pleased when we rescue them?’ ‘Jesus,’ said the Stag, ‘it ought to be a party.’

(解説)party も多義なので文脈から訳語を選択する。ここ、「女たちがよろこぶか」との問いに対する答え。Jesus (間投詞で、おどろき、あきれを示す)とつながるのだから「一団」ではなく「大騒ぎ」ととるのがよいだろう。「やれやれ」はちょっと弱い「そりゃさ」ぐらいか。

修正訳:
「そりゃ」と、スタッグが言った。「大騒ぎになるさ」
(p105)
みんななにかしてあやまちをしでかした連中なんだが、それもロゼッタの罠にかかったか、嗅ぎつけられて弱身を握られたかだ。彼女はそれを種に女たちを脅迫して、…
They have all of them made some mistake or other which Rosette either engineered or found out about, and now she has put the screws on them;

(解説)engineer の意味を「たくらむ」ととって「罠にかかった」としたのだろう。しかし、「陰謀をたくらむ」とはいうが、「ミスをたくらむ」とはいわない。engineer some mistake は「ミスを処理する」の意味だろう。「弱身」は校正ミス。

修正訳:
ロゼッタに事をうまく処理してもらったり、何か嗅ぎつけられて弱味を握られたかだ。
(p107) **
御者は頑強に反対したが、ウィリアムが十ピアストル握らせると手綱をはなした。ウィリアムは高い御者台に御者と並んで坐った。
The driver protested vigorously, but when William gave him ten piasters, he gave him the reins. William sat high up on the driver’s seat with the driver beside him.

(解説) high above the city を「高い町の上に」と訳して平気な学生が何人もいたので驚いたことがある。丘の上に町があるわけでなく、「町の上高くに」の意味。high は副詞で大まかな位置、above 以下が前置詞句で具体的な場所を示す。
例:
high up in the air「空高く」。さてここは?sit up は「背筋を伸ばしてすわる」、high は副詞で「高く」(坐り方をいっている)。ウィリアムは座席にすくっと背筋を伸ばして座ったのだ。

修正訳:
御者台高く
(p114)
男たちは酔っているようすもないし、金や女の問題でもなかった。彼女自身に関することだった。それがロゼットには気に入らなかった
They didn’t seem drunk, it wasn’t about money and it wasn't about one of her girls. It was about herself and she didn’t like it.

(解説)ここ、男たちに悪態をつかれた場面なのだ。意味はこれでよいが、もっとつよい言葉がほしい。

修正訳:
それがおぞましかった
(p118)
ハイヒールをはき、きらきらのイヴニング・ドレスを着た十四人の女たちに、いくら憲兵隊の形式とはいえ、夜の町じゅうを行進させられるものではない。ましてやそれが長時間に及ぶときている
You can’t make fourteen girls in high heels and shiny evening dresses march all over town with you at night, not for long anyway, not for long, even if it is a formality of the military.

(解説)力点が違う。付加的な説明でなく、条件を述べている。

修正訳:
ましてやそれが長時間に及ぶときては。
(p122) **
みんな美人ぞろいで、年も若く、十人十色、みなそれぞれに個性的だった。ギリシャ人、シリア人、フランス人、イタリア人、陽気なエジプト人、ユーゴスラヴィア人、そのほかいろんな国の人間が集まっていたからだが、とにかくみんな美人ぞろいだった。
They were good-looking girls, young and good-looking, all different, completely different from each other because they were Greek and Syrian and French and Italian and light Egyptian and Yugoslav and many other things, but they were good-looking, all of them were good-looking and handsome.

(解説) 何でエジプト人だけ「陽気な」という気質の説明がつくのか、と思ってしまう。light も多義だが、ここは肌の色を言っている。

修正訳:
肌白のエジプト人
(p123)
みなさん」と、彼はいった。「われわれはみなさんを家まで送らせていただきます。わたしは五人をお送りします」すでに計算ずみだった「スタッフィは五人、こちらのハンサム坊やは四人だ。三台の馬車に分乗し、わたしの馬車には五人乗せて、一人ずつ家の前でおろして行きます」
‘Med’moiselles,’ he said. ‘It will be a pleasure for us to escort you home. I will take five of you,’ —he had worked it all out—‘Stuffy will take five, and Jamface will take four. We will take three gharries and I will take five of you in mine and I will drop you home one at a time.'

(解説) これはイディオムで「まんまとやってのける」の意味。

修正訳:
あざやかな算段だ
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