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第3回 (5月上旬号) 『執事』① 誤訳編
by 柴田耕太郎
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  文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページに満たない短いものだから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に、市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。 冒頭に誤りの種別と悪訳度を示したうえ、原文と邦訳、悪訳箇所を掲げます。どう悪いのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。

 今回取り上げるのは、『王女マメーリア』(早川文庫、田口俊樹・訳)のなかの『執事』(Butler)
*原文3頁の短いものなので、指摘が細かくなること、承知ください。
誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
執事
[ストーリー]
成金のジョージ・クリーヴァーは、己の上昇志向を満たすため、一流料理と一流ワインで上流階級の人々をもてなしはじめた。主宰の晩餐会では、にわか勉強で、ワインの薀蓄を傾ける。ひょんなことから、晩餐会の席上、ワイン鑑識眼のことで執事を罵倒するが、じつは自分たちが一流ワインだと思って飲んでいたものは、三流ものだったことが分かってしまう。
名詞:** イディオム:**
With the help of these two experts, the Cleavers set out to climb the social ladder and began to give dinner parties several times a week on a lavish scale.
が、このふたりのエキスパートの助けを得て、クリーヴァー夫妻は社交界の階段を昇りはじめ、週に数回豪勢なディナー・パーティーを開くようになった。

[解説]
the social ladder は「社会階層」。イギリスは上流、中流、下流の階層社会であるとよく言われるが、それぞれの階層の中がさらに細かく分かれている。「社交界の階段」では、すでにそこに入っていて、より高く昇ろうとしている、と読めてしまう。ここは、例えば中流の中であったクリーヴァー夫妻が、中流の上、上流の下、さらに…、と社会階層を上げてゆくことを言っている。また set out to do は「…しようと試みる」の意。
修正訳 が、このふたりのエキスパートの助けを得て、クリーヴァー夫妻は上の階級に入ろうとし、週に数回豪勢なディナー・パーティーを開くようになった。
イディオム:**
They were in fact so huge that even Mr Cleaver began to sit up and take notice.
で、クリーヴァー氏は急にワインに関心を示しはじめた

[解説]
執事に命じて購入したワインの値段が法外なのを思い知ったクリーヴァー氏の態度を叙した箇所。sit up and take notice は「ぎょっとする」。直訳すれば「それらのワインの価値は実際にあまりに途方もないのでクリーヴァー氏でさえ驚きはじめた
修正訳 それで、さすがのクリーヴァー氏でさえ、思わず眼を剥いた
名詞:*** 名詞:*** 動詞:***
Then you take a mouthful and you open your lips a tiny bit and suck in air, letting the air bubble through the wine.
それから口いっぱいに舌をやや広げまして空気と一緒に吸いこむのでございます。

[解説]
ワイン通ぶって、この訳文どおりのことを人に説いたら失笑されてしまうだろう。誤訳恐るべし。
直訳は「
少量を含み、口を少し開き、空気を吸い込み、その空気がワインを通して泡立つようにさせる」。mouthful は「一口;少量」。lip は広義では「口のあたり」だが、「舌」を単独で指すことはない。suck は他動詞と自動詞あるが、ここは他動詞で「…を吸いこむ」、in は副詞で「中に」。
修正訳 それからワインを一口含んで口をうすく開けてそのまま空気を吸い込んで、口の中のワインと混ざるようにするのです。
副詞:** 名詞:
Whats the matter with the silly twerps? Mr Cleaver said to Tibbs after this had gone on for some time. Dont none of them appreciate a great wine?
そういうことがあってからしばらく経って、クリーヴァー氏はティブスに言った。「あの低脳の不愉快な連中はいったいどうしたというんだ?だれひとりこの偉大なワインの味がわからないじゃないか」

[解説]
直訳は「こうしたことが或る期間続いてしまったあとに」。this は「上に述べたような状況」。go on はイディオムで「(事態が)続く」(on は副詞で「ずんずん、どんどん」の意)。「しばらく経って」ではなく、「しばらく続いて」なのだ。「低脳の不愉快な」は言葉の並びが悪いし、だらだらしている。ここは同じような意味を重ねてリズムを出し、悪態の度を高める表現だから、日本語ならどういうか、で訳語を考えたほうがよい。
修正訳 そういうことがしばらく続いた後、クリーヴァー氏はティブスに言った。「あのくそバカどもはいったいどうしたというんだ?だれひとりこの偉大なワインの味がわからないじゃないか」
形容詞:***
I believe, sir, that you have instructed Monsieur Estragon to put liberal quantities of vinegar in the salad-dressing.
「私が思いますに、旦那様、旦那様はムッシュー・エストラゴンに、サラダ・ドレッシングに通常の量の酢を、入れさせておいででございますね?」

[解説]
liberal は多義だが、この場合は「たくさんの、豊富な」の意。
修正訳 「私が思いますに、旦那様、旦那様はムッシュー・エストラゴンに、サラダ・ドレッシングに大量の酢を、入れさせておいででございますね?」
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