アイディのホームページへようこそ! アイディについて 採用情報 サイトマップ お問い合わせ Go to English version!
HOME 翻訳 通訳 イベント・会議 A & V 人材派遣・紹介 SCHOOL 通信教育

第6回 (3月下旬号) 『牧師のたのしみ』 その①
by 柴田耕太郎
PDFデータ
1. 2007年1月上旬号
2. 2007年1月下旬号
3. 2007年2月上旬号
4. 2007年2月下旬号
5. 2007年3月上旬号
6. 2007年3月下旬号
バックナンバー
1. 2007年1月上旬号
2. 2007年1月下旬号
3. 2007年2月上旬号
4. 2007年2月下旬号
5. 2007年3月上旬号
  文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された 『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画「007は二度死ぬ」の脚本家でもあるロアルド・ダール (Roald Dahl)の短編集「キス・キス」(KISS, KISS)。全11編を月二回、一年かけて点検してゆく。俎上に乗せる邦訳は開高健・訳『キス・キス』(早川書房)。
  冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、 解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
牧師のたのしみ
[ストーリー]
ロンドンの古物商であるボギス氏は、掘り出し物を見つけるため、いかにも公的に聞こえそうな「骨董家具保存協会会長」を名乗り、田舎の旧家を巡っている。今回はすごいカモが引っかかった。相手の持ちものは、名人チッペンデール作の衣装戸棚だ。大金持ちになり、業界での名声も得られると有頂天だったが、安く買い叩こうと「脚だけがほしいのだが…」とケチをつけたのが運のつき。車を取りに行っている間に、売主は親切心から、戸棚の躯体部分を解体してしまう…。
①前置詞:*、 ②副詞:**
The hawthorn was exploding white and pink and red along the hedges and the primroses were growing underneath in little clumps, and it was beautiful.
山査子は生け垣にそって、白い花、桃色の花、赤い花、が咲き乱れ、桜草は小さな茂みの下で伸びてきて、それがまたなんともいえない。

[解説]
山査子の生け垣なのだから「そって」はおかしい。この
along
(1)…の側を
例:There are trees all along the banks.(両岸に沿って並木がある) 
(2)…(の中)を(ずっと)
例:sail along the river(川を航行する)、
のうち(2)。「生け垣の山査子にはずっと」
「下で伸びてきて」は
underneathin を共に前置詞ととったためのあやふやな訳(特例を除き、前置詞が重なることはない)。
自動詞+副詞+前置詞+名詞の形は、副詞で大まかな位置、前置詞句以下で具体的な場所を示すのが通例。「下のほうに」具体的には「小さな塊で」。
「茂みとなって、(生け垣の)下に生えてきている」
前置詞:***
Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that to work from.
日曜日に出かけるところで、こんなに見事な眺めの土地はざらにない。

[解説]
二文に分解してみる。
Not many of his Sunday sections had a nice elevation like that. He is to work from the nice elevation.
直訳 「彼の日曜の区域の多くが、その場所から始めるべきこのようなよい高度をもっているわけではない」
意訳 「いつもやる日曜の仕事が、こんなにすばらしい眺めのところから始められることはめったにない」
副詞:**
He drove up the hill and stopped the car just short of the summit.
彼は丘を登りきると、村のはずれにある頂上の手前で車を停めた。

[解説]
この
upは副詞で「上へ」。「すっかり」とはとれない。
例: He climbed the mountain.(登山した《頂上まで登った》)
He climbed up the mountain.(山を登った《上に登っていった》)。
「丘を登ってゆき」 
イディオム:**
The people there could probably do with some money.
住んでいる人間はおそらく、なにがしかの金でも欲しいのだろう

[解説]
do with は「…で満足する」。could は仮定法。
「なにがしかの金をやれば満足するだろう」
相関詞:***
; and often, at the end of an unusually good performance, it was as much as he could do to prevent himself from turning aside and taking a bow or two as the thundering applause of the audience went rolling through the theatre.
そして、われながら稀にみる名演技にこたえて、思わず傍らを向いて、一、二度頭を下げる役者みたいな苦労を味わった

[解説]
全体的にちょっとずれている。
as much ascan は「…の最大限」の意味。
it to 以下。
直訳 「そしてしばしば、いつになくうまくいった演技の最後には、観客の歓呼の轟きが劇場中をゆるがす時、脇にのいて一、二度お辞儀することから自らを阻むことが、彼ができうる最大限であった」
意訳 「そしてうまくいった時などは、劇場の万呼の声に応え脇により頭を下げる役者よろしくあいさつをしたい、そんな衝動を抑えるので精一杯だった」
名詞:***
He spent two minites delivering an impassioned eulogy on the extreme Right Wing of the Conservative Party, then two more denouncing the Socialists.
彼は熱狂的な極右保守党礼賛を二分ばかりまくしたてると、こんどはまた二分間ほど労働党をこきおろしにかかった。

[解説]
「極右保守党」というものがあるのでなく、「保守党」の「極右派」。
「保守党の極右派」
①名詞:**、 ②形容詞:**
It was a favourite test of his, and it was always an intriguing sight to see him lowering himself delicately into the seat, waiting for the give, expertly gauging the precise but infinitesimal degree of shrinkage that the years had caused in the mortice and dovetail joints.
それは彼得意の試験法であったし、
結果を待ちながら、上品な座り方をして、年代もののためにほぞ継ぎにできた、正確な、ごく微小の収縮具合まで玄人らしく測る彼を見るのは、興味をそそられる光景だった。

[解説]
give は名詞で「たわみ」。「たわむがままに」
この
precise は、限定用法で「はっきりした、明瞭な」の意味。次の infinitesimal と対比され「ごくわずかだがはっきりとわかる縮みぐあい」といっている。「明らかにある」
接続詞:
They had seen him stop and gasp and stare, and they must have seen his face turning red, or maybe it was white, but in any event they had seen enough to spoil the whole goddamn business if he didnt do something about it quick.
三人はボギス氏が立ちどまって、喘ぎ、眼を丸くするのをその眼で見たし、ボギス氏の顔が赤くなるか、あるいは、まっさおになるところをきっと見たにちがいない。が、いずれにしろ、はやくこちらがなにか手を打たなければ、折角のぼろ儲けをふいにするほどの光景を、三人に見られてしまったのだ。

[解説]
or は、言い換え。「、いやたぶん蒼白になったのだろうが、」
名詞:***
It was a most impressive handsome affair, built in the French rococo style of Chippendales Directoire period, a kind of large fat chest-of-drawers set upon four carved and fluted legs that raised it about a foot from the ground.
チッペンデールが監督だったころのフランス的なロココ・スタイルでつくられた、うっとりするほどみごとなもので、模様と溝が彫られた四本の脚のついた、一種の大きな、たっぷりした箪笥だが、その脚の長さは約一フィートである。

[解説]
語頭の大文字は固有名詞化のしるし。フランス史でいう総裁政府期(1795
99)のこと。家具・衣装の分野では、新古典主義傾向を指す。
「チッペンデールの新古典主義作風時代」
掛かり方:***
The men were staring at this queer moon-faced clergyman with the bulging eyes, not quite so suspiciously now because he did seem to know a bit about his subject.
三人の男はこのおかしな、お月さまみたいな顔をした牧師を、だいぶ疑惑の色のうすれた、いまにもとびだしそうな眼で凝視している。というのも、ボギス氏が家具の世界に少々明るいように思われてきたからだ。

[解説]
「いまにもとびだしそうな眼」をしているのは、牧師。
with は「…を持った」。
カンマは以下情報を付け加えるしるし(主体は
the men)。
全文の意訳 「三人は、おかしなな奴だなとこの出目で丸顔の牧師を見つめていたが、家具について一家言あるのがわかったので、胡散臭さそうに見る態度は消えていた。」
Copyright (C) 2006 ID Corporation. All Rights Reserved