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第14回 (7月下旬号)『ローヤル・ジェリイ』
by 柴田耕太郎
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  文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された 『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画「007は二度死ぬ」の脚本家でもあるロアルド・ダール (Roald Dahl)の短編集「キス・キス」(KISS, KISS)。全11編を月二回、一年かけて点検してゆく。俎上に乗せる邦訳は開高健・訳『キス・キス』(早川書房)。
  冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、 解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
ローヤル・ジェリイ
[ストーリー]
アルバート・テイラーは若き養蜂家。子宝に恵まれたばかりだが、その乳飲み児の娘の食が細くて、妻ともどもとても心配している。アルバートの案じた一計で、目出度く娘の食欲を回復させることができた。ローヤル・ジェリイを大量に飲ませたのだ。これで一安心と喜んだのも束の間、よくよく見ると、乳児であるはずの娘は、女王蜂さながらに変身中!?…。
比較級:***
You cant tell me its natural for a six-week-old child to weigh less, less by more than two whole pounds than she did when she was born! Just look at those legs! Theyre nothing but skin and bone!
「もう六週間もたっているのに、二ポンドにも充たないなんて、生まれた時より目方がへってるなんて、あたりまえじゃないじゃありませんか!あの足をごらんなさいな!まるで骨と皮だわ!」

[解説]
比較級については、次の視点をつねに持つことが大切。
何と何を、何の点で比較しているか。
ここでは、赤ん坊について、その産まれたときと六週間たった現在の体重を、増減の点で比較している。
該当部分だけ抜き出して一文にすると、
She(the six-week-old child) weighs less (by more than two whole pounds) than she did when she was born.
つまり、「生後6週間の赤ん坊」について(
she)、その生まれたときの体重(did [=weighed] when she was born)と、現在の体重(weighs)を、増減(less than )の点で比較。
by more than two whole pounds が挿入的に入って(前の less に掛かる副詞句)、わかりにくくしているが、ここの by は単位を示す前置詞で「…分」、more than two whole pounds は「まるまる2ポンド以上」で、by 以下の全体は「まるまる2ポンド以上分」が直訳。
修正訳 「2ポンド以上も」。
間投詞:
Yes?
「そうかな?」

[解説]
これは、相手の呼びかけについて、それを受けるあいづち。日本語でも同じ。
「はい?」
助動詞(まがい):
He picked up the magazine that was still lying on his lap and glanced idly down the list of contents to see what it had to offer this week.
彼はひざの上においたままになっている雑誌をとりあげ、今週眼を通しておかねばならないものを探すために、目次をぼんやりと眺めた。

[解説]
had to を「…しなければならない」と取ったのだろうが、「…おかなければならない」ことを「ぼんやりと」するのはおかしい。ここは、had to の間は区切りがあると考えるべき。what の中に含まれる先行詞を the thing で置換え、it had the thing to offer this week(雑誌は今週提供すべきものを有する)と読む。
直訳 「雑誌に今週載っているものに目を通すために」。
修正訳 「今週の内容を見ておこうと」。
名詞:**
Regurgitations
『修復論』

[解説]
じつはこの前後に
The Healing Power of Propolis, British Beekeepers Annual Dinner とあって、いかにも養蜂家雑誌の目次を思わせる。そこに突然「修復論」が出てくるものだから、読んでいるほうは面食らう。なるほど、辞書によっては「修復」の訳語を載せたものもあるが、ここはミツバチが「吐くこと」「もどすこと」ととりたい。
修正訳 「反芻」
名詞:***
He never had to use smoke when there was work to do inside a hive and he never wore gloves on his hands or a net over his head.
彼は巣箱の中での仕事があるときには、決して煙草を吸おうとはしなかったし、手袋もはめず、頭にネットをかぶるようなことも、決してなかった。

[解説]
何で、やぶからに「煙草を吸う」ことに焦点が当てられるのだろう。刺されないよう用心して、煙をたいて燻すことを意味しているのだ。
修正訳 「煙を焚こうとは」
動詞:***
He doubted very much whether there would be anything in this that he didnt know already:
彼がまだ未知のこの分野に何か意義があるのか、彼は大いに疑問だった。

[解説]
主人公のアルバートは、少年時代からの天才的養蜂家なのだ。「未知」とか「疑問」とかは無縁だという自負があるはず。
doubt whether は「半信半疑」だが very much で修飾され「whether 以下のことはない」に可能性が移動する。that 以下は anything に掛かる。this は、ここだけでは分からないが、いま読もうとしている雑誌記事を指す。
修正訳 「この記事のなかに、自分がまだ知らないことなんて出ているわけがあるまい、と彼は思った。
名詞:***
Albert Taylor took the pipe out of his mouth and examined the grain on the bowl.
アルバート・テイラーはパイフを口から離すと、鉢の中に入っている穀物を調べた。

[解説]
この
bowl は「パイプの鉢」。the grain はここでは「木目」の意味。
修正訳 「鉢の木目模様に目をやった」。
動詞**
Will you come in and watch the next one and see if she does it again, Albert?
He told her
he wouldnt miss it for anything, and she hugged him again, then turned and ran back to the house, skipping over the grass and singing all the way.
ぼくのやること間違いなんかあるものかと、彼はいってきかし、彼女はもう一度彼を抱きしめると、身をひるがえしてスキップをふみ、ずっと歌を唄いながら家の方へ走っていった。

[解説]
直訳すると「絶対にそれを逃しはしない」といっている。it は「二人の愛児がちゃんと食事をとること」。for anything は否定形と結び「少しも…ない」の意。miss は「…しそこなう」→この場合「見損なう」。
修正訳 「ぜったい見逃すものか」または意訳して「何があっても家に戻るさ」
イディオム:
Albert, stop pulling my leg.
「アルバート、ごまかさないでよ

[解説]
pull ones leg は、イディオムで「からかう」。
修正訳 「からかわないで」
イディオム:*、動詞:
They mix a tiny pinch of it into a big jar of face cream and its selling like hot cakes for absolutely enormous prices.
連中は大きな美顔クリームのカンの中に、ほんのちょっぴりこいつを混ぜ合わせて、とんでもなく馬鹿高い値段のホット・ケーキみたいに売るのさ

[解説]
like hot cakes はイディオムで「飛ぶように」。
修正訳 「馬鹿高い値段で飛ぶように」

この
sell は自動詞で「売れる」。
修正訳 「売れているのさ」
動詞:
and quite apart from that, we had a shocking honey corp last year, and if you go fooling around with those hives now, theres no telling what might not happen.
「それに、その話はともかくとして、去年の蜜の収穫量はぜんぜんひどかったわ。だから、あなたがあの巣箱をいいかげんにしておくつもりなら、どうなったって知らないわよ」

[解説]
fool around は「バカな真似をする」。
修正訳 「あの巣箱にへんなことをするなら」
名詞:
What the hell are you talking about, Mabel?
Albert, Mrs Taylor said. Your language.
「なにをばかみたいなことをいってるんだ、メイベル?」
「アルバート」と彼女はいった。「なんてことを

[解説]
the hell などと品のない言葉を夫が口にしたので、とがめたのだ。
修正訳 「その言い方って」。
名詞:***
Three times the normal amount! Isnt that amazing!
三回も定量だけ飲んだんだ!こいつはおどろきじゃないか!」

[解説]
この times は「…回、倍」
修正訳 「定量の三倍飲んだんだ」
名詞:***
She weighs a ton.
一トンもふえてるぞ!」

[解説]
この weigh は自動詞「…の重さがある」。赤ん坊の目方を計っているのだ、一トンにもなるわけがあるまい。a ton は口語で「たくさん」。
修正訳 「すごく増えてる」
イディオム:**
I thought that might surprise you a bit. And Ive been making it ever since right under your very nose. His small eyes were glinting at her, and a slow sly smile was creeping around the corners of his mouth.
きみにはちょっとおどろきだったかもしれんが、きみの反対は予想の上で、つくってみたんだ」彼の小さなひとみは、きらきらしながら彼女をみつめ、かすかな微笑みが口の端から、ゆっくりと顔にひろがってゆく。

[解説]
might may の過去形で可能性を示している。ever since は副詞句で「以来」。right は強調の副詞「まさに」
直訳 「君を驚かすかもしれなと思ったんだ。それで以来、君の目と鼻の先でそれを作ってきた」
意訳 「驚かすといけないと思って、なにも言わずに作ってきたんだ」
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