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第8回 (4月下旬号) 『ビクスビー夫人と大佐のコート』
by 柴田耕太郎
PDFデータ
1. 2007年1月上旬号
2. 2007年1月下旬号
3. 2007年2月上旬号
4. 2007年2月下旬号
5. 2007年3月上旬号
6. 2007年3月下旬号
7. 2007年4月上旬号
8. 2007年4月下旬号
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  文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
そんな読者のために、人気小説の翻訳書にみる誤訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された 『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画「007は二度死ぬ」の脚本家でもあるロアルド・ダール (Roald Dahl)の短編集「キス・キス」(KISS, KISS)。全11編を月二回、一年かけて点検してゆく。俎上に乗せる邦訳は開高健・訳『キス・キス』(早川書房)。
  冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、 解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
ビクスビー夫人と大佐のコート
[ストーリー]
ビクスビー夫人はニューヨーク在住の歯科医の妻。月に一度、伯母の介護という名目でボルチモアに出かけ、そこで「大佐」と呼ばれる渋い中年男と逢瀬を楽しんでいた。やがて別れがやってきてが、手切れ金代わりに高価なミンクの毛皮をもらったビクスビー夫人は、質札を拾ったことにして夫への説明を切り抜けようとする。ところが、夫のほうが一枚上手だった…。
動詞:
Divorce has become a lucrative process, simple to arrange and easy to forget;
離婚は儲かる事業になって、かんたんに成立し、あっさり忘れ去ることができる商売になった。

[解説]
lucrative は「儲けを生む」process は「ある特定の結果にたどりつくためになされる一連の事柄」。arrange は「何かの段取りをつける」 simple は、 to arrange にかかる副詞。 simple to arrange 以下全体は、前の本文に対する修飾語。カンマがあるのでいったん意識が切れ情報を補足する感じ(文法的には、前の process に掛かる不定詞の形容詞的用法)。
直訳 「離婚は儲けを生むための手段となり、簡単に仕掛けられ、さっさと忘れられる。」
意訳 「離婚は金儲けの手段と化し、仕組むのもた易く、後腐れもない。」
動詞:
; and ambitious females can repeat it as often as they please and parlay their winnings to astronomical figures.
そして、野心的な女性たちは、好きなだけ離婚をくり返し、天文学的な数字の賞金を獲得できる

[解説]
parlay A to Bは「Aを元金として、Bへとまた掛けに出る」Bを到達点として訳し→「Aを元手にBに至る」。 their winnings は、離婚による慰謝料の例え。 can は、理論的可能性(…しうる)。「慰謝料を元手に、莫大な財産を築く」
形容詞:
They know that the waiting period will not be unduly protracted, for overwork and hypertension are bound to get the poor devil before long, and he will die at his desk with a bottle of benzedrines in one hand and a packet of tranquillizers in the other.
彼女たちは、待つ期間が途方もなくのびはしないことを承知しているのだ。過労と高血圧が遠からず、確実に、哀れな亭主を捕えるはずなので、彼は、片手にベンゼドリンの瓶を、もう一方に精神安定剤の包みを持って、デスクで昇天する運命にある。

[解説]
心情をあらわす形容詞は副詞化するとよい。
「可哀想に亭主を」
名詞:
Young men marry like mice, almost before they have reached the age of puberty, and a large proportion of them have at least two ex-wives on the payroll by the time they are thirty-six years old.
彼らは、ほとんど思春期の年齢に達しもしないうちに、さながらネズミのように妻をめとり、三十六歳になったころには、すくなくも二人の先妻を雇っているのが大部分である。

[解説]
養育費を払い続ける比喩であるのがわかるように訳す。
直訳 「給与支払い名簿に少なくとも二人の先妻を持っている。」
意訳 「先妻二人分の生活費も見る羽目になる。」
関係詞:***
To support these ladies in the manner to which they are accustomed, the men must work like slaves, which is of course precisely what they are.
かねがねやりつけているやりかたでこれらのご婦人連を養っていくために、男性どもは奴隷のごとく働かねばならないのだが、むろん正確にいえば、彼らはけっして奴隷ではない

[解説]
ここ先行詞と、
what の中身(the thing which)の指すものが分裂している(こういうことは、ママある)。先行詞は、 like slavesthe thing にあたるのは slaves
直訳 「これらの婦人を彼女たちが慣れ親しんでいるやり方で扶養するために、男たちは奴隷のように働かねばならないのだが、奴隷状態こそ当然彼らがまさしくそうであるところのものなのだ。」
意訳 「結婚していたときと同じ生活レベルを維持してやるため、男たちは女のために奴隷のように働かねばならない、いや実際男たちは奴隷そのものなのだ。」
形容詞:**
These are many of these stories going around, these wonderful wishful thinking dreamworld inventions of the unhappy male, but most of them are too fatuous to be worth repeating, and far too fruity to be put down on paper.
これらは、不幸な男性が生む希望的観測にあふれたすばらしい夢の世界であるが、その大部分があまりにも空虚すぎて、くり返して語るほどの値打ちもなく、また、あまりにも話がうますぎて、とても書きしるせるものではない。

[解説]
この
fruity は「(性について)あけすけな」の意。「あまりにきわどすぎて」
イディオム:
So far so good.
それでいままでのところは、うまくいったのである

[解説]
これはイディオム
「ここまではよかった」
接続詞:**
As it turned out, however, the aunt was little more than a convenient alibi for Mrs Bixby.
しかし、やがて、伯母さんはビクスビー夫人に都合のいいアリバイだということがわかった

[解説]
力点が異なる。時制を現在にずらせて考えるとよくわかる。
As it turns out, however, the aunt is little more than a convenient alibi for Mrs Bixby. (しかしながら、判明するように、伯母というのはビクスビー夫人にとってのほとんど都合のよいアリバイなのである。)
「アリバイ」が重要なのであって、「わかった」ことが重要なのではない。
「あとでわかるのだが(…アリバイ)なのであった」「結局のところ(…アリバイ)なのであった」
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