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第24回 (5月下旬号) 『海の中へ』悪訳編
by 柴田耕太郎
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 文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳を取り上げ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から選ぶ。いずれも原文で10ページに満たない短いものだから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に、市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
 冒頭に誤りの種別と誤訳度を示したうえ、原文と邦訳、悪訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
 今回取り上げるのは、『あなたに似たひと』 (早川書房、田村隆一・訳) のなかの『海の中に』(Dip in the Pool)。

悪訳度: *** 致命的悪訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的悪訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的悪訳(誤差で許される範囲)
海の中へ
[ストーリー]
大型客船で船旅を楽しむボティブル氏は、船長主催の「一昼夜航続距離当てオークション」で一儲けをたくらむ。船長が予想した航続距離515マイルに対し、マイナス10マイル未満に入れ札したのだ。荒天のゆえの予想だったが、翌日の海は鏡のように静か。船を遅らせるため、ボティブル氏は救助を当てにして海に飛び込むが、甲板にいて助けを求めてくれるものと当てにしていた老女が、なぜか反応を示さず、ボティブル氏は溺れ死ぬ運命に…。
所有格:
At last the really bad roll came, and Mr William Botibol, sitting at the purser’s table, saw his plate of poached turbot with hollandaise sauce sliding suddenly away from under his fork.
とうとう、ものすごいやつが襲ってきた。事務長のテーブルに坐っていたウィリアム・ボティブル氏は、オランデーズ・ソースのかかった食べかけの平目の皿が、目の前から急にすべりだしたのを見た。

[解説]
事務長と同席していた、という意味に取れるように訳したい。
「食べかけの」でも悪くないが、正確に訳せば、「ゆでた平目」。

修正訳: こ事務長と同じテーブルにいた
ゆでた平目の皿
名詞:
Oh, my word yes, sir. We slackened off considerable since this started. You got to slacken off speed in weather like this or you’ll be throwing the passengers all over the ship.’
そうですとも、旦那。荒れはじめてから、かなり落としてますね。こんな天気じゃ、スピードでも落とさなかったら、船のお客さんはみんな船からおっぽり出されてしまいますからね」

[解説]
豪華船のエレベータ・ボーイが「旦那」はおかしい。別の箇所でも「競売人の手代」とあるが、これも直したい。

修正訳: そうでございますね。
(競売人の助手)
固有名詞:
Ninety per cent to go to the winner, ten per cent to seamen’s charities.
そのうちの、90パーセントが当たった人に、のこりの十パーセントが、船員救済資金にまわる。

[解説]
意味が狭まって強すぎる。
修正訳: 船員基金
意味不明:***
There was no point in pretending that he had the slightest chance now? not unless the goddam ship started to go backwards. They'd have to put her in reverse and go full speed astern and keep right on going if he was to have any chance of winning it now. Well, maybe he should ask the captain to do just that. Offer him ten per cent of the profits. Offer him more if he wanted it. Mr Botibol started to giggle.
この糞船が、逆もどりでもしないかぎり、こうなったらもう、あたるチャンスが千に一つでもあると、自分をだまそうったって、どうにもならないんだ。実際、彼が当るためには、船の向きをクルッとかえ、フル・スピードで逆もどりして、そのまま走ってでもくれないかぎり、どうしようもなかった。よし、船長を口説いてみるか、あがりの十パーセントを提供する、いや、おのぞみとあらば、もっとやってもいい。ボティブル氏は、クスクス笑いした。

[解説]
原文と対照しないと、意味が判読できないのでは、翻訳の意味がない。砕いて訳す。
修正訳
直訳: 自分が最小の機会を持っているふりをする上で如何なる意味もない---この糞船が逆行し始めでもしない限り絶対に。
意訳: いくら自分にもまだチャンスは残ってると言い聞かせようと思ったって、そんなもの、この糞船が逆戻りでもしない限り、絶対に無理だ。
名詞:
Mr Botibol was both frightened and excited when he stepped out on to the sun deck in his sports clothes. His small body was wide at the hips, tapering upward to extremely narrow sloping shoulders, so that it resembled, in shape at any rate, a bollard.
スポーツ着といういでたちで、サン・デッキに出てきたボティブル氏は、びくびくしているものの、すっかり興奮しているのだ。ちいさな体は、臀部の方がひろがっていて、上に行くにつれて細くなっている。肩ときたら、極端にせまくて、ハの字にさがっているのだ。どうみたって、船をつなぐブイにしか見えない

[解説]
「ブイ」(浮標)では、ずんぐり・がっしりしたものを思い浮かべてしまう。bollard は双係柱という専門語があるようだが、わかりにくいか。一般語では(1)繋船柱 (2)安全柱、のうち、前の形容からしても(2)がよいだろう。
修正訳: 安全柱にしかみえない
例え:**
Every minute, every second gained would help him win.
一分一秒でも、時間をかせげば、それだけ、自分の当る手も多くなるわけだ

[解説]
意味がわかりにくい。ほかの比喩に変える。
修正訳: 勝つ可能性も高まる
位置:**
Soon a tiny round black head appeared in the foam, an arm raised above it, once, twice, vigorously waving, and a small faraway voice was heard calling something that was difficult to understand.
と、すぐ泡立った海水のなかから、ちっぽけな、まんまるい黒い頭があらわれ、その上に腕をあげて、一、二回、ものすごい勢いで手をふって合図するのが見え、それからずっと離れたところから、はっきりわからないが、なにかしきりに呼びかけているらしい声が、かすかにきこえてきた。

[解説]
「ずっと離れたところから」では、飛び込んだ男とは別の場所に思えてしまう。その場所で発する男の声が、ずっと遠くかすかに聞こえる、といいたいのだ。
修正訳: そこから何かわからないが、しきりに呼びかける声が、遠くかすかに聞こえていた。
比喩:***
‘You better come down now,’ the bony woman said. Her mouth had suddenly become firm, her whole face sharp and alert, and she spoke less kindly than before.
「あんた、さ、中に入った方がいいよ」と骨ばった女が言った。そして、急に口をキッパリととじると、するどい、油断もすきもないといった表情にかわり、いままでのような、やさしい口をきかなくなってしまった。

[解説]
「油断もすきもない」では、相手を警戒しているようではないか。ここは、世話をしている相手に対し、甘さを控え厳しく対応しようというところ。
修正訳: 気を引き締めた、厳しい表情にかわり
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