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第15回 (12月上旬号) 『お願い』誤訳・悪訳編
by 柴田耕太郎
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 文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページに満たない短いものだから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に、市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
 冒頭に誤りの種別と誤訳度(または悪訳度)を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
 今回取り上げるのは、『あなたに似た人』(早川書房、田村隆一・訳)のなかの『お願い』(THE WISH)。
誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)

悪訳度: *** 致命的悪訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的悪訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的悪訳(誤差で許される範囲)
お願い
[ストーリー]
 少年は家の広い玄関ホールを南の海、そこに敷かれたまだら模様のカーペットの黄色部分を島に見立て、階段の下から島伝いに玄関まで、飛び移るひとり遊びをする。黒い部分は海の深淵、邪悪なワニが口をあんぐり開けている。伝い損なえば、自分の命がないのだ。初めのうちはうまくいったが、真ん中あたりで大きな海峡を越えなければならなくなった。エイヤッと飛び越そうとした刹那、足の半分が黒い深淵を踏んでしまった。危し、少年!と、その時、遠くで自分を呼ぶお母さんの声がした。

 全体的に訳文はうまくできている。特に書き出しは上手で、先を読もうかという気にさせる。これは商品としての翻訳において重要だ。  ちょっと、見てみよう。


UNDER THE PALM of one hand the child became aware of the scab of an old cut on his kneecap. He bent forward to examine it closely. A scab was always a fascinating thing; it presented a special challenge he was never able to resist.
片手のてのひらに、少年は膝小僧の上にある古い傷のかさぶたを感じた。もっとよく調べてみようと、少年はうつむいてみた。かさぶたはいつでも面白いものだと思う。おさえることのできない、へんてこな誘惑にかられるのだ。

下線部分、直訳すれば「かさぶたは自分が我慢できないとりわけの挑戦を示している」。意訳すれば「かさぶたは(自分がそれに対し)挑んでみようという特別な気を催させる材料だ」といったところだろうが、こうした理屈っぽい訳より、気分を映した上記の訳のほうが、すんなり読み進んでゆけるだろう。
 それでも、皆さま、翻訳修行のための勉強です。重箱の隅をほじくることにしましょう。

...yes, the black parts are snakes, poisonous snakes, adders mostly, and cobras, thick like tree-trunks round the middle, and...

…そうだ、黒いところは、蛇のかたまりだあ、毒蛇なんだぞ。たいがいはクサリヘビで、それにコブラもいる。胴中なんかは木の幹みたいに太いんだ。

悪訳:
[解説]
「クサリヘビ」というあまり聞かない蛇では、恐さの説得性がなくなるのではないか。子供の知識からしても、同分類項目の知られている蛇名をもってくるのが、よいだろう。
修正: マムシ
悪訳:
[解説]
恥ずかしながら「どうなか」とは、読めなかった(麻生首相のことは言えません)。教養のない読者にも翻訳は配慮するもの。
修正: 胴回り
He got to his feet and climbed higher up the stairs to obtain a better view of this vast tapestry of colour and death. Was it possible? Was there enough yellow? Yellow was the only colour he was allowed to walk on. Could it be done? This was not a journey to be undertaken lightly; the risks were far too great for that. The child’s face—a fringe of white-gold hair, two large blue eyes, a small pointed chin—peered down anxiously over the banisters.
少年は立ち上がると、階段を上へ上へとあがった。色あざやかなつづれ織りの模様を、いや死の景色を、もっとよく眺めてみたいと思ったからだ。さあ、できるだろうか?黄色いところ、たくさんあるかしら?黄色のところだけが、少年が歩いてもいいところなんだ。大丈夫かなあ?これは、軽々しくは踏みだせない旅だ。危険は、はかりしれないほどなんだ。少年の顔
白みがかった金髪の前がみ、二つの大きな青い瞳、ちいさな、とがったおとがいその顔が不安そうに、手すりを通して、下のほうを覗きこんでいる。
悪訳
[解説]
勉学のため精確に訳すとすると、「色と死のこの巨大な絨毯をもっとよく見ようと…」。
of +抽象名詞=形容詞化。つまり「color death の性質・特徴(of)を持った絨毯」ということになる。この並列の形容を、上記の訳では言い換え処理している。これは翻訳の誤差として、充分許される範囲。このままでよいだろう。
修正: なし
悪訳:
[解説]
このあたり中間話法になっているので、客観的な叙述の「少年」はまずいだろう。

修正: 自分が
悪訳:
[解説]
色の訳に関して翻訳者は一様に鈍感。日本語では表現しない色の言い方は、読者にストレスを与える。少しずれても、自然な色の叙しかたにする。
修正: 明るいブロンド
He came slowly down the stairs and advanced to the edge of the carpet. He extended one small sandaled foot and placed it cautiously upon a patch of yellow. Then he brought the other foot up, and there was just enough room for him to stand with the two feet together. There! He had started! His bright oval face was curiously intent, a shade whiter perhaps than before, and he was holding his arms out sideways to assist his balance. He took another step, lifting his foot high over a patch of black, aiming carefully with his toe for a narrow channel of yellow on the other side.
少年は、そうっと階段をおりると、絨毯の端へ近よっていった。彼は片一方のちいさなサンダルばきの足をあげ、黄色い部分へと用心しいしい、その足をおろしてみた。それから、もう一方の足も持ちあげた。その黄色いところは、両足をおろしても、ちょうどきっちりなくらいのあいだしかなかったさあ!もう出発してしまったんだ!少年の、輝いた卵型の顔は、奇妙にひきしまって、顔の色も、前よりか、ほんのかすかだけど、白っぽくなった。少年は、手を両側につっぱって、身体のバランスをとった。足を高く持ちあげて、黒い部分にさわらないようにしながら、向う側にある狭い黄色の流れへと足元を注意深く向けて、もう一歩、少年は足を踏みだした。
誤訳:**
[解説]
just は強調、enough は名詞 room (余地、空間)に掛かる形容詞だが、前から掛かるのと後から掛かるのでは重さが異なる。前からだと「十分に、たっぷり」の意、後からだと「…するに足るだけ、想定基準を超えた」の意。ここは前から掛かっているので「空間は十分、たっぷりある」のだ。
修正: 両足を並べて立つのに十分余裕があった
誤訳:**
[解説]
これは、自分がうまく渡れたので安堵して漏らした間投詞的なもの。
修正: やったぞ
悪訳:
[解説]
「奇妙にひきしまって」では、顔の形が可笑しいみたいだ。もう少し、弱い表現にする。
修正: 妙にひきしまって
悪訳:
[解説]
「狭い」だけだと、何かが隣にあって窮屈な様子を想像してしまう。言葉を付け足す。
修正: 幅が狭い黄色の流れ
..., and he got across safely and rested again on the other side. He was quite breathless now, and so tense he stood high on his toes all the time, arms out sideways, fists clenched. He was on a big safe island of yellow.
で、やっとの思いで、安全にそれを渡りきり、向う側でひと休みできた。いまは息をすることもままならぬほど、心をはりつめて、ずっと爪先立ちしながら、少年は両の腕を両側につき出し、そのこぶしを、グッとにぎりしめていた。やっと彼は、ひろくて安全な黄色い島に渡った。
誤訳:
[解説]
島に渡りきったのに、何で爪先立ちしなければならないのだろう。on ones toes は(1)つま先立ちで (2)緊張して、油断しないで、の二つの意味がある。S V Cの文型でstand C(=high)は、Cの状態で立っているの意だが、この high は「気分が高揚して」ではないか。so tense that 〜 の that が省略されている。文脈からしても、(2)ととるのが順当だろう。
修正: 緊張のあまり、ずっと気が昂ぶり
Step by step, he edged further ahead, and between each one he paused to decide exactly where he should put his foot.
一歩、一歩、少年は前へ、じりじり進んで行った。そして一足ごとに、次はどこへ足をおろしたらいいのか慎重に思い決めるのだった
悪訳:**
[解説]
「思い決める」という表現はない。
修正: 思い定めた
The child went high up on his toes and stayed there, frozen stiff with terror. It was minutes before he dared to move again.
少年は恐怖で凍りついたかのように、爪先立ちになり、そのままジッとしていた。もう一度、思い切って彼が動きだすまでには、何分もかかってしまった。
誤訳:**
[解説]
爪先立ったまま何分もじっとしている必然性が感じられない。ここもon ones toesは「気を張って」の意味だろう。ここの go は「(悪い事態を)生じる」の意、high up とあわせ「緊張したままドギマギする」と考えたい。
修正: 「気を詰め」
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