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第18回 (1月下旬号) 『この子だけは』①誤訳編
by 柴田耕太郎
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 文法力をつけたいが、無味乾燥な文法書など読みたくない。
 そんな読者のために、人気小説の翻訳書に見る誤訳・悪訳をとりあげ、文法面から解説してゆく。題材は最近映画化された『チョコレート工場』の原作者で、日本がロケ地になった映画『007は二度死ぬ』の脚本家でもあるロアルド・ダール(Roald Dahl)の短編から任意に選ぶ。いずれも原文で10ページに満たない短いものだから、読者も自分で訳してみて、この解説を参考に、市販訳との優劣を競ってみてはいかがだろうか。
 冒頭に誤りの種別と誤訳度(または悪訳度)を示したうえ、原文と邦訳、誤訳箇所を掲げます。どう間違っているのか見当をつけてから、解説を読んでください。パズルを解く気分で、楽しみながら英文法を学びましょう。
 今回取り上げるのは、『飛行士たちの話』(早川書房、永井淳・訳)のなかの『この子だけは』(ONLY THIS)。
誤訳度: *** 致命的誤訳(原文を台無しにする)
** 欠陥的誤訳(原文の理解を損なう)
愛嬌的誤訳(誤差で許される範囲)
この子だけは
[ストーリー]
 女は眠りながらも、意識のどこかが目覚めている。飛行士になったひとり息子が乗った戦闘機が上空をよぎるのを、待っているのだ。やがて爆音が轟き、女は眼を覚ます。音のありかを求め夜空を探るうちに、息子いとしさのあまり、彼の乗った飛行機のところへ心が飛んでいってしまう。地上からの砲撃が当たり、飛行機は焔に巻かれる。息子を助け出そうと身体を引っ張るが、力尽きる。そのまま飛行機は錐揉みしてゆき、女は心労で死んでしまう。
名詞:** 名詞:***
The cottage stood alone in a corner of the big field. There was a path from the front door which led across the field to a stile and on over the next field to a gate which opened on to the lane about three miles from the village.
その田舎家は広い草原の一角にぽつんと建っていた。表口から一本の小径が延びて野原を横切り、垣根の階段に達し、つぎの野原も横切って、村からおよそ三マイルのところにある田舎道に面した木戸に通じていた。

[解説]
field は主に(1)野原 (2)畑 (3)牧草地、の意味があるが、叙景と stile (踏越し段)の意味[人だけを通して家畜は通さないように牧場などの垣・へいなどに設けた階段・踏み台(ジーニアス)]からして(3)。
stile を「垣根の階段」としては、イメージが湧かない。
修正訳: 草原、野原→牧草地
垣根の階段→踏越し段
形容詞: 名詞:
There were no other houses in sight and the country around was open and flat and many of the fields were under the plough because of the war.
ほかに家は見あたらず、周囲の地形は広く平坦で、戦時下のために野原の大部分が耕されていた。

[解説]
open は「広く」でも間違いではないが、「(広いため)さえぎるものがない」に力点がある。
「野原」が「耕される」では、新田開発みたいだ。放牧地を食料増産のため畑に転用する、ことだろう。

修正訳: 広く→見通しよく
野原→牧草地
名詞:
Her black shoes were on the floor beside the chair. On the dressing-table there was a hairbrush, a letter and a large photograph of a young boy in uniform who wore a pair of wings on the left side of his tunic.
軍靴は椅子のそばの床に脱ぎすてられ、化粧台の上には、ヘアーブラシと、一通の手紙と、軍服姿の青年の大きな写真がのっていた。

[解説]
her とあるのだから、どうあっても「軍靴」のはずがない。
修正訳: 軍靴→黒い靴
前置詞:**
Behind the searchlights she saw the flak. It was coming up from the town in a thick many-coloured curtain, and the flash of the shells as they burst in the sky lit up the inside of the bomber.
彼女はサーチライトの向こうに対空砲火を認めた。それは下の町から厚い色とりどりのカーテンとなって発射され、空中で炸裂するたびに閃光で爆撃機のなかがぱっと明るくなった。

[解説]
抽象的な「対空砲火」が「発射され」では、コロケーションがおかしい。また「カーテンとなって発射」では画面が描けない。この
flak は「対空砲」、in は場所を示し the town に掛かる形容詞句、ととるべきだろう。さまざまな爆弾の炸裂光それによって生じる煙、空をまさぐるサーチライトの灯り、それらが一体となって町を覆うさまを in a thick many-coloured curtain といっているのだろう。
修正訳: 対空砲火→対空砲
それは下の町から厚い色とりどりカーテンとなって発射され→それは色とりどりの厚いカーテンに覆われた町から発射され
名詞:**
She knew that they had been hit when she saw the flames from the nearest engine on the left side. She watched them through the glass of the side panel, licking against the surface of the wing as the wind blew them backwards, and she watched them take hold of the wing and come dancing over the black surface until they were right up under the cockpit itself.
彼女は左翼のいちばん近いエンジンが火を噴いているのを見て、砲弾が命中したことを知った。操縦席の右側のガラスを通して、風に煽られた火が翼の表面をなめ、なおも風の勢いで翼の黒い表面を踊り狂いながら操縦席のすぐ下まで燃え拡がってくるのを見た。

[解説]
「火を噴いている」のは「左翼」なのだから、「右側のガラスを通して」はおかしい。「脇の計測盤のガラスを通して」が直訳。当然左のはずだが、訳には出さずともよいだろう。
修正訳: 操縦席横のガラスを通して
名詞:**
Then from far away in the south came a deep gentle rumble which grew and grew and became louder and louder until soon the whole sky was filled with the noise and the singing of those who were coming back.
やがてはるか南のほうからかすかに地鳴りのような音が聞こえはじめ、しだいに高くしだいに大きくなって、ほどなく空全体が爆音と、帰ってきた者たちの歌声で満たされた。」

[解説]
これでは、勝利に酔いしれた乗組員たちが凱歌を上げているように聞こえる。those who は「…する人たち」ととるのが普通だが、ここでは飛行隊のこと。noise singing はリズムを出すための同義語反復で、二語の意味の差を苦吟する必要はない。of those 以下は形の上では singing だけに掛かるとも、noise singing に掛かるともとれるが、the noise だけでは何の noise か不明。同義語反復の点とあわせ、両方に掛かるととる。
修正訳: 戻ってきた爆撃隊のエンジンの轟き
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