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第38回 (3月下旬号)
日英語の誤差
by 柴田耕太郎
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 アメリカを中心に電子ブックの類が急速に普及しそうな様子。これにはコンテンツの豊富さが大いに貢献している。publishing company が著者の著作物を利用できる範囲には、電子メディアも含まれ、積極的に新媒体に著作物を提供してきているからだ。ところが日本では、出版社における著者著作物の利用は、おおむね紙媒体に限られるため、電子ブック類へのコンテンツ提供が思うように進んでいない。
 どうして日米で原著作物の利用可能性が、違ってくるのだろうか。これは何と、「出版」と「publishing」の概念の差にある。日本の出版社の親睦団体に「出版梓会」があるのでわかるように、「出版」は、梓のような堅い版木に刻み出した文字を墨で紙に写したところからきている。紙によるもの以外の「出版著作物」は想定されていなかったのである。一方、ラテン語の publi (公け)+-ish (動詞化)+ ing(動詞の名詞化)が語源の「publishing」は、「出版」より範囲が広く、「刊行」「公刊」の意味を持つ。
 そう、「出版」と「publishing」は必ずしもイコールでないのが、図らずも新媒体の普及により明らかになったわけだ。「世界基準」ということでは、日本の出版社も著者も、著作権について「出版」モードから「publishing」モードへ頭を切り替える必要がありそうだ。

 こうした一見同じ意味だと思われる日・英単語の誤差の恐さを、筆者のような「翻訳ビジネス」を業とする者は、骨身に沁みるほど味わっている。だから、テレビの海外ニュースなどを見ていると、ついやきもきしてしまう。
 先日も、大リーガー松井秀喜の球団移籍のニュースが流れたが、NHKのキャスター(日本のニュース司会者が「キャスター」と呼べるかどうかは疑問もあるが)は、移籍先の監督のコメントを「中堅としての活躍を期待する」と伝えた。監督の同じ言葉をテレビ朝日では、「中核として期待している」としていた。「中堅」と「中核」では随分印象が異なるが、原語は何か。core であれば「中核」だろうが、middle であれば「中堅」がふさわしかろう。誤訳とまではいえないが、どちらかが語義の選択が甘い、といえそうだ。
 そういえば、日本人大リーガーの先駆けである野茂英雄の活躍を、当時彼が在籍していた球団のラソーダ監督が褒めたことがあった。Im proud of him. であったように記憶しているが、日本のマスコミは一様に「私は野茂を誇りに思う」と述べたと報じた。実際は、そんな大げさなコメントではあるまい。もっと昔、オリンピック女子マラソンで三位になった有森裕子が「がんばった自分を褒めてあげたい」と言ったが、あれぐらいの軽い感じ。英語は一つの語義でも幅が広いので、文脈・状況からそれを狭めて理解せねばならない。監督の気持ちは「私は彼を褒めてやりたい」というぐらいだったのではないか。
 このように英語の単語は、ある面あいまいだから、逆に一語一語が細かく分かれ、意味範囲も狭い日本語に訳そうとすると、実に苦労する。だが、万事に細かすぎる日本語こそ、精密な読解には適しているのである。孔子の「論語」だとて、当の中国では、そう朱熹にしたところで、簡単な注釈しか入れていないそうだ。「般若心経」の注釈も、日本にこそいくつもの優れたものがある。微に入り細に渡る式の、漢文訓読に由来する日本人古来の読解法は、文法力と論理力と教養力を鍛えることにより、並みのいわゆるネイティヴより原著者に近づくことができるのだ。
 こういう欄などを通して、私は今消えつつある英文精読を啓蒙してゆきたい。今後とも、御講読をお願いする次第です。
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