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第46回 (7月下旬号)
シェイクスピア『ヘンリー4世』の翻訳 その②
by 柴田耕太郎
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(原文)

Re-enter Hastings.

Hast. 1<My lord>, our army 2<is dispersed> already:
Like 3<youthful steers unyoked>, they take their
  courses
East, west, north, south4<; or, like a school
  broke up,
Each hurries toward his home and sporting-place>.
West. Good tidings, my Lord Hastings; for
   the which
I do arrest thee, traitor, of high treason;
And you, 5<lord archbishop>, and you, lord Mow-
 bray,
Of capital treason I attach you both.
Mowb. 6<Is this proceeding just and honourable>?
West. 7<Is your assembly so?>
Arch. Will you thus break your faith?
Lan.
      I pawn’d thee none:
I promised you redress of these same grievances
Whereof you did complain; which, by mine
 honour,
I will perform with a most Christian care.
But for you, rebels, look to taste the due
Meet for rebellion and such acts as yours.
Most shallowly did you these arms commerce,
Fondly brought here and foolishly sent hence.
Strike up our drums, pursue the scatter’s stray:
God, and not we, hath safely fought to-day.
8 9<Some guard these traitors to the block of death,
Treason’s true bed and yielder up of breath.>
                        [Exeunt.


[疑問点と柴田の見解]
1.
小田島訳のみ My lord を「大司教閣下」(他訳は「閣下」)と訳しているが、何故だろか?

(柴田見解)
My lord は、侯爵以下の貴族への略称での呼びかけ。公爵ならYour(His) grace または Prince となる。小田島訳は、誰に対して言った言葉かをはっきり示している。

2. 「退散しました」(逍遥訳)と「退散しておりました」(小田島訳)とでは、だいぶ感じ違うがどちらが正しいのだろうか?

(柴田見解)
disperse は(1)他動詞「…を追い散らす」、(2)自動詞「散らばる」のうち、文脈から(2)。自動詞の過去分詞は状態をあらわす(形容詞化)。正確な直訳をすれば「(すでに)散らばった状態」である。逍遥訳、中野訳、小田島訳とも、力点を行為に置くか状態に置くかの違いであって、いずれも可。

3. 直訳は「頚木をはずされた食肉用の去勢されたはつらつとした雄の子牛」→「自由に解き放たれた元気な子牛」だが、「子牛」を「若駒」(坪内、小田島)「若牛」(中野)としてよいのだろうか?

(柴田見解)
勝手に動き回ることのできる例(そういった類のもの)として挙げられたのだから、「若駒」でも「若牛」でも翻訳で許される範囲。

4. 「又は小学校の放課後という風で、めいめい家路へと、遊び場へと。」(坪内逍遥訳)にほぼ倣った訳を中野好夫、小田島雄志もつけているが、中世に小学校があったのだろうか?

中野好夫 「放課後の児童にも似て、それぞれの家路へ、また遊び場へと、急いでまいったものと存じます。」

小田島雄志 「あるいは放課後の小学生同様、それぞれの家に、遊び場に、いそいでおります。」

(柴田見解)
; or は(1)選択「あるいは」 (2)換言「すなわち」のうち、例示(like)に力点を感じれば(1)、具体化(take their coursehurries toward his home and sporting-place)に力点を感じれば(2)。ここはどちらも可。

「放課後」なら不可算名詞で school になるはず。

break up は、「一日の授業が終わる」でなく、「休暇になる」の意味。

ヘンリー四世(1366-1413)の時代には、教師の質も生徒の年齢もまちまちの寺子屋的なものはあったが、我々がイメージするような「小学校」は存在しない。制度としての学校はもっと上級のグラマスクール(大学入学準備のため主にラテン語を学ぶところ)、大学(ケンブリッジ、オックスフォード)のこと。

a school と可算名詞がついているのだから、漠然としたものではなく、「スクール」で当時の人が思い浮かべるはずのもの、つまり上記の高等教育機関を指すのではないか。

そこでの学生は大方遠方から来ているはず。home の訳は「家路」でも間違いではないが、意味するところは「帰郷」であろう。

sporting-place は「遊び場所」ではあいまい(遊園地とか原っぱを想像してしまう)。「歓楽街」→「悪所」「遊郭」「娼家」であろう。
その理由:
(1) 学業から解放された学生が散ってゆく場所、が示唆されている。

(2) place ground と違って「ある特定の目的のための場所」をいう。

(3) place house の意味で使われることがある。

(4) sporting house で「娼家」の意味がある。

それで、この箇所をしつこい直訳にすれば「すなわち、大学などの学期が終わったかのうに、銘々がある者は故郷へと、またある者は歓楽街へといそいそ散って行きます。
5. 逍遥訳「大監督」はともかく、lord archbishop を「大主教閣下」(中野)、「大司教閣下」(小田島)と訳語が分かれるのはどうしてだろうか?

(柴田見解)
「大主教」は、英国国教会での高位聖職者の呼称。英国国教会はヘンリー8世(1491-1543)時代にできたもの。ここはそれ以前なので「大司教」が正しい。

6. 7. 「さういうことをなさって、それで公明盛大といえますか?」「足下たちの暴挙が然ういへるかい?」(坪内逍遥訳)にほぼ倣った訳を中野好夫、小田島雄志もつけているが、貴族同士がこんな売り言葉と買い言葉の応酬をするだろうか?

中野好夫 「モーブレー おのれ、これが武人の正しい道だとでもいうのか? ウェストモーランド ならば、そもそもその方たちの蜂起は?」

小田島雄志 「モーブレー ええい、これが公明正大なやりかたか? ウェストモーランド おまえたちの暴挙が公明正大と言えるのか?」

(柴田見解)
just は、この場合「神の義にかなった」(この少し前の、ランカスター公がモーブレー卿に対し「神の代理人である王」に逆らう非道を叱責する場面が伏線となっている)。

honourable just の同義語反復(似た意味を重ねるのは英語でも日本語でもよくある)。

同義語反復で後にくる語は、意味が弱くなる。前の語だけの意味を考えればよい場合があり、ここもそう考えられる。

このやりとりを論理的に読み解けば「こんなやりくち(騙し討ちのような)は神の義にかなわず恥ずべきものだ」といわれたのに対し、「そもそもお前たちの集会(神の代理人である王に対する謀反、を含意)こそ神の義にかなわず恥ずべきもの」(だから、それを退治するのに騙し討ちぐらいは構わないのだ、を含意)と反駁している、こととなる。


8. 「謀反人の正当な臥床でもあり終焉所でもある斬首台まで警護して行け」(坪内逍遥訳)と同じく、「正当な臥床」(Treasons true bed)イコール「終焉所」(yielder up of breath)として中野好夫、小田島雄志も訳しているが、名詞の並列でないものを同格に訳せるものだろうか?

坪内逍遥 「謀反人の正当の臥床でもあり終焉所でもある斬首台」。

中野好夫 「恰好のベッド、息の引き取り場所」。

小田島雄志「反逆者の目を閉じさせるにふさわしい寝台」。

(柴田見解)
Some (誰か)、guard (見張れ:命令形)、to (…まで)

the block of death Treasons true bed は、同格で言い換え「斬首台、すなわち反逆者の真の寝台」。

and guard yielder を並列(yielder up of breath を名詞的にTreasons true bed と並列させたり、形容詞的に掛けたりする注釈書もあるが無理ではないか)。

yielder up of breath は、他動詞で目的語が省略された yielder up these traitors of breath ととり、かつ多義である yield ( yielder はその古形)の意味を「(人に)渡す」ととる。of は、関連を示すものととる。「息に関し、これら反逆者を引き渡せ」→「こいつらの息の根を止めろ」。全体では、「誰か、この反逆者どもを裏切り者の真の寝床である斬首台に連れてゆき、息の根を止めてやれ」。

全体では、「誰か、この反逆者どもを裏切り者の真の寝床である斬首台に連れてゆき、息の根を止めてやれ」。


9. the block of death を、坪内は「斬首台」、小田島は「断頭台」と訳しているが、同じ意味なのだろうか?

(柴田見解)
the block of death は「死のまな板」が直訳。the が冠されて特定化され、「断頭台」となる、と言いたいところだが、「断頭台」というとギロチンが想像されるが、ギロチンはフランス革命の際に発明されたもの(祖型のひとつはイギリスにもあるが)。この時代にはそぐわない。「首切り台」「斬首台」とでもすべきところ。
 細かすぎる、という向きには、「縛り首」と「つるし首」は同じかと聞きたい。「縛り首」は時代劇によくでてくる日本の刑罰であり、「つるし首」は西部劇などに見られる刑罰。ここは「子牛」「若牛」「若駒」といった例示ではなく、具体的なものなのだから語義にはこだわらなくてはならない。

 「坪内逍遥が誤訳した箇所は、後からやる翻訳もみな間違っている」などと聞いたこともあるが、本当なんですね…。
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