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第41回 (5月上旬号)
『英文解釈教室』補 その①
by 柴田耕太郎
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 第2章から第15章までは、本欄に以前連載した。一章が欠けている(別の媒体に寄稿したため)ので、読者複数より問い合わせあり、ご要望によりここに、再録する。

(以下、某大学紀要に載せた、該当部分)  

II 大学受験の現場

 英文和訳は大学受験時に必須であるが、入学後は英文科の学生でもなければ英文読解の訓練をすることはあまりないから、受験の英語を見ることで、実社会の英語の雛形がわかるだろう。

『英文解釈教室』*2(研究社出版、伊藤和夫・著)は、大学受験生対象にロングセラーをつづけている。「東大志望者が全員買うが、最後までだれもたどりつけない本」として有名だ。さもありなん、大学受験生程度の学力でこの本の内容についてゆけるとは思えない。とにかく難しいのだ。まず取り上げてある文章の多くは高級かつ抽象的な英文で、時として破格に慣れさせようとするのか悪文もある。かつ文法的解説が微に入り細にわたっており、逐一の理解にエネルギーを要する。それでも英語力の涵養になるから懸命についてゆこうという気にさせるのが、この本の実力である。読んで目から鱗がおちることもしばしば。

*2 1977.02.05.発行。1997.06.20.改訂版発行。2000.02.25.改訂版5刷発行。

  例えば第5文型の説明にこうある

OがCであると、Sが考える[知る]。
OがCである状態を、Sが生じさせる。
という2つの意味が基本であり、…(第2章)」

 早速原則を適当な英文に当てはめて、
I thought him honest. him honest であると I thought する、のか
He shouted himself hoarse. himself hoarse である状態を He が [shouted して]生じさせるのだな、なるほどと納得した。

 まただれもがよく悩む修飾関係についてはこういう
「英語は語句の並行的な対応関係を重んずる言語であるから、この際は、

まず(H+H)Mという均衡のとれた形で考え、((論者注)H:被修飾語 M:修飾語)
この解釈で通らぬ場合にかぎってH(H+M)の解釈((論者注))H+HMの意味だと思われる)をとるべきである(第14章)」

 うん、
plants and animals useful なら「有用な植物と動物」とまずとり、おかしければ「植物と有用な動物」とすればよいのか。なんでこんな簡単なことを学校で教えてくれなかったのか、と怒りと感動がないまぜになったのを覚えている。

とはいえ難しさの三つ目の要因は、この著書の欠点と言えるものであって、それは「訳が悪い」ことである。

  伊藤は「大学入試以後に、一般教養として、翻訳の訓練が行なわれることはない。いきおい、学生は、大学入試の訳出法が唯一のものであり、その種の訳文が十分に通用する日本語だと思い込んでしまう。彼らが大学入試後にその方法で専門書を翻訳することが、大量の意味不明の翻訳書を我々の社会に横行させている。いや義務教育の段階から、『ひっくり返る』という形で不自然な日本語を学生に強要してきたことが、翻訳調の日本語を生み、日本語を破壊してきたのである。」(『予備校の英語』、研究社)と嘆き、本書でも例題の全訳のところどころに、訳出の工夫を述べているぐらいだから、読むに耐える訳文については、十分に認識していたものと思われる。だが、悲しいかなその伊藤の日本語訳が、ところどころ不満足なのだ。とくにまずいのは語感が鈍いこと。そのため多義語の語義の選択が甘く、日本語のコロケーションがおかしく、ニュアンスや力点がずれることがある。この三つが、ただでさえ難しい原文と日本語訳とのつき合わせを困難にしている。ここでは全15章のうち第1章を取り上げてその訳文を検討してみる*3。

*3 番号、下線部は問題箇所。評価基準は次に従う。
誤訳: 明らかな解釈・語法の誤り。英文和訳の試験でも×になるもの
悪訳: 原文と日本文で理解の差を生じさせるもの
誤差: 正しくはないが英文和訳の誤差として許されるもの
修正訳: 日本語訳で原文の意味が正しく伝わっているかどうかを問題にするため、伊藤訳を最小限訂正したもの



第1章

1.1.1

The freshness of a bright May morning in this pleasant suburb of Paris had its effect on the little traveler.

伊藤訳: この楽しいパリ郊外の5月の明るい朝のさわやかさが、小がらな旅人に影響した

楽しい[悪訳]:遊園地か景勝地があってそこ(郊外)が「たのしい」場所みたいにとれてしまう。ここは enjoyable and making you feel happy の意味「気分をよくしてくれる」
小柄な[誤差]:「小柄」なら small とか short というだろう。little は「かわいい、若い、小さい」の意味を併せ持つ美称ととるのが順当(以前アメリカ連続テレビドラマ『Syougun』で国際スターになりかけた島田楊子が、国際女子マラソンの優勝者、ゴーマン美智子に扮した映画『the little champion』の little がこの感じ)。だが日本語ではこの三つの意味を併せ持つ単語が見当たらない(か弱い、という意味も加えれば「いたいけ」になろうが)ので、満足はゆかないが意味が偏らない訳語を選ぶ→「ちいさな」
影響した[悪訳]:例えば believe in him での him は「存在としての彼」「彼の内面」のうち、当然内面のほうで「彼のいうことを信じる」の意味だが、「彼を信じる」としてもよいのは「彼=彼の内面」と自然に理解されるから。effect は「〜に(on)結果を引き起こす影響・効果」だが「さわやかさが、…影響した」では、身体(存在)に影響したものととられてしまう。これはコロケーションの問題。ここでの effect は心(内面)に及ぼすに決まっているから、言葉を補って(「の気持ちに影響した」)訳文の読み手を正しい理解へ導いてやらねばならない。意訳でも説明訳でもない、原文はそこまで書いてあるのだから。 freshness「すがすがしさ」bright「(日光などが)明るい」。itsは主部全体を指す。

修正訳: この気分のよいパリ郊外の5月の明るい朝のさわやかさが、そのちいさな旅人の気持ちに影響を与えた



1.1.4

The element radium, discovered by the Curies, is probably the most remarkable substance in the world.

伊藤訳: キューリー夫妻が発見したラジウムという元素は、おそらく世界で最も注目すべき物質であろう

「おそらく…であろう」[誤差]: probably は頻度でいえば「十中八九」。可能性はきわめて高い。

修正訳: キューリー夫妻が発見したラジウムという元素は、世界で最も注目すべき物質であろう。(「おそらく」を除いた)



1.1.5

The greatest American hobby today is photography. Every other person encountered at a vacation resort or seen strolling in a city park carries a camera.

伊藤訳: 現在、アメリカ人の最大の趣味は写真である。休日の行楽地で出会う人や町の公園を散歩しているのが見られる人のうち、2人に1人はカメラを持っている。

「休日の行楽地」[悪訳]: resort はラテン語由来で、「しげしげと通う」の意味から、(1)盛り場 (2)行楽地。ここは名詞ながら形容詞的にはたらく vacation がつき、グローバル英和辞典にも「休日の行楽地」とあるが、この訳語自体がおかしい。対する平日の行楽地などといったものがあるようではないか。日本では行楽はおおよそ休日にするものときまっている(!?)のだから「リゾート地」「行楽地」でよいだろう。
「散歩しているのが見られる人」[悪訳]: encountered seen はともに受身形で person に掛かっている。日本語訳もきちんとした日本語で能動か受動かに統一するのがよい。「…で見かける散歩を楽しんでいる人」。photography は「写真撮影」

修正訳: 現在、アメリカ人の最大の趣味は写真である。行楽地で出会う人や町の公園で見かける散歩を楽しんでいる人のうち、2人に1人はカメラを持っている。



1・1 例題(1)

A sensitive and skilful handling of the language in everyday life, in writing letters, in conversing, making political speeches, drafting public notices, is the basis of an interest in literature. Literature is the result of the same skill and sensitivity dealing with a profounder insight into the life of man.

伊藤訳: 日常生活において、つまり手紙を書いたり、会話や政治演説をしたり、公式の通知を起草したりするときに、気をつけてたくみに言葉を使うことが、文学への関心の基礎となる。文学は、同様な技巧と感受性が人間の生活に対するもっと深い洞察を取り扱うところから生まれるのである

「日常生活において」[誤差]:卑近なことを連想させる「日常生活」の例に「政治演説」「公式の通知」が挙げられるのはおかしい。この everyday life は「実人生」「実社会」といった意味合い
「手紙を書いたり…起草したりするときに、」[誤差]: inが三つ並んでいるが、1番目は2、3番目に対し上位概念(life のなかに、書いたり話したりがある)なので、「すなわち」とつづけるのはよいが、3番目のinのあと3つがひとかたまりで2番目の in と並列しているのに注意したい。つまりI, /II, III(3-1,3-2,3-3)の形の並列。ここでのように並列の逐一が重要なものでない場合、原文と同じ並列の格をそろえるより読みやすさ優先にするのは翻訳では常道だが、英文和訳の練習としては文法優先の訳をつけるべきだろう。この②の箇所のようにザクッと訳す所と①、③のようにいわゆる直訳の箇所が何の基準もなく入り混じっているのが、この書に限らず英文読解本に見られる不満のひとつである。sensitiveは「感覚が鋭い」こと。
「同様な技巧と…生まれるのである」[悪訳]:原文を忠実になぞれば、(文学は)「そういった気の使い方とたくみさが人間生活をもっと深く見通す状態を按配する成果なのである」 insight into 〜 「〜を見抜く(こと)」insight は可算名詞化され具体的なものに転化「見抜く/こと・物・状態・力など」deal with 〜 「〜を扱う」「〜を処理する」→「按配する」「論ずる」「云々する」→「行う」(→は意味を狭める印) だが、このままではどうも日本語としてわかりにくい。そこではじめて英文和訳での意訳の意義が認められるのだ。

修正訳: 社会生活で手紙を書くときでも、談話や政治演説や公式通知の起草をするときでも、気をつけてたくみに言葉を使うことが、文学への関心の基礎となる。文学は、こうした技巧と感受性を以って人間の生活をより深く洞察しようとするところから生まれるのである

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