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第45回 (7月上旬号)
シェイクスピア『ヘンリー4世』の翻訳 その①
by 柴田耕太郎
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 戯曲の翻訳はできるだけ原文の長さに合わせ(でないと間延びしてしまう)、耳によく響く、かつアクションのしやすいものでなければならない。だが、この要件を満たす翻訳はきわめて少ない。いや、それ以前に重要な、正確さもないがしろにされがちだ(上記の要件を満たすためという言い訳をつけて)。
 正確さを確かめようと、シェークスピア『ヘンリー四世』の原文と諸訳(坪内逍遥、中野好夫、小田島雄志の三訳)を照らし合わせてみた。

 反乱を企てるヘイスティングス卿、モーブレー卿、ヨーク大司教に対し、ランカスター公(ジョン王子)、ウェストモーランド卿の説得が功を奏し、講和となる場面。 *番号と< >、下線は柴田が入れたもの。

(原文)

Re-enter Hastings.

Hast. 1<My lord>, our army 2<is dispersed> already:
Like 3<youthful steers unyoked>, they take their
  courses
East, west, north, south4<; or, like a school
  broke up,
Each hurries toward his home and sporting-place>.
West. Good tidings, my Lord Hastings; for
   the which
I do arrest thee, traitor, of high treason;
And you, 5<lord archbishop>, and you, lord Mow-
 bray,
Of capital treason I attach you both.
Mowb. 6<Is this proceeding just and honourable>?
West. 7<Is your assembly so?>
Arch. Will you thus break your faith?
Lan.
      I pawn’d thee none:
I promised you redress of these same grievances
Whereof you did complain; which, by mine
 honour,
I will perform with a most Christian care.
But for you, rebels, look to taste the due
Meet for rebellion and such acts as yours.
Most shallowly did you these arms commerce,
Fondly brought here and foolishly sent hence.
Strike up our drums, pursue the scatter’s stray:
God, and not we, hath safely fought to-day.
8 9<Some guard these traitors to the block of death,
Treason’s true bed and yielder up of breath.>
                        [Exeunt.



[坪内逍遥訳]
ヘスチ 閣下、我軍は既に退散しました。頚城を脱された若駒のやうに、東西南北へと走って行きます。又は小学校の放課時といふ風で、めいめい家路へと、遊び場へと
ウェス 好いお知らせです、ヘースチングズ卿。(急に態度を改めて)さう聞いた上は、すぐさま其方を捕縛するぞ、謀叛人め。それから、大監督、あんたも。モーブレー卿、あんたも、大叛逆罪として逮捕しますぞ。

  兵士ら群至して三人の武器を取上げる。

モーブ (憤然として)さういふことをなすって、それで公明正大といへますか?
ウェス 足下たちの暴挙が然ういへるかい?
大監  (ヂョン王子に)かうまで誓約をお破りなさるか?
ヂョン 此事に就いて特にどういふ誓約もしない。わたしは足下がたの陳情に応じて一切の積弊を矯正することを約束した、さうしてそれはわたしの名誉に懸けて、基督信者らしく、きッと履行するであらう。併し、足下がたは謀叛人である以上、その謀叛相当、其行為相当の罰を受ける覚悟をするが好い。事を起したのが既に愚挙であったのだが、うっかり出陣して、うっかり解散するとは、いよいよ愚な話であった。…太鼓を鳴らして解散した奴等を追撃なさい。今日かう安全の利を収めたのは全く神のお力である。…だれか此叛賊どもを謀叛人の正当の臥床でもあり、終焉所でもある斬首台まで警護して行け。



[中野好夫訳]
ヘースティングズ 閣下、わが軍はすでに解散いたしました。頚城を解かれた若牛同様、東へ西へ、南へ北へと、めいめい、思いのままに散じてしまいました。放課後の児童にも似て、それぞれの家路へ、また遊び場へと、急いでまいったものと存じます。
ウェストモランド ヘースティングズ卿、これは吉報。しからば、早速まずその方だが、叛逆罪のゆえをもって捕縛いたす。同じく大主教閣下、モーブレー卿、その方どももまた、大逆罪によって逮捕いたすゆえに、さよう心得ろ。
モーブレー おのれ、これが武人の正しい道だとでもいうのか?
ウェストモランド ならば、そもそもその方たちの蜂起は?
大主教 こうして誓約をさえ破ろうとされるのか?
ランカスター            誓約などいたさぬ。ただその方たち申し出の積弊だけは、たしかに改めることを約束をしたにすぎぬ。事実そのことは、われらが名誉にかけても、キリスト教徒として万遺憾なく、きっと実行いたすつもり。したが、その方らの企て、すなわち叛乱行為に対しては、よいか、当然の処罰が下るものと覚悟しなければならぬぞ。それにいたしても、そもそもの蜂起からしてが浅慮至極。のこのこと出てまいって、あっさり解散などとは、いよいよもって阿呆千万。さ、軍鼓を鳴らして掃討戦をかけるのだ。今日この無血の勝利は一に神の賜物、われらの力ではない。さ、これら叛逆人どもは、断頭台へと送ってやるがよい。それこそ恰好のベッド、息の引き取り場所と申すものだ。



[小田島雄志訳]
ヘースティングズ 大司教閣下、わが軍はすでに解散しておりました、頚木を解かれた若駒同様、東へ西へ、南へ北へ、思いのままに散っております、あるいは放課後の小学生同様、それぞれの家に、遊び場に、いそいでおります。
ウェストモランド いい知らせだな、ヘースティングズ卿、そう聞いたからには、謀反人め、反逆罪のかどによりおまえを逮捕する。大司教閣下、それに、モーブレー卿、二人とも大逆罪のゆえをもって縄を受けるがいい。
モーブレー ええい、これが公明正大なやりかたか?
ウェストモランド おまえたちの暴挙が公明正大と言えるか?
大司教 こうして誓約を破られるのか?
ランカスター            誓約などしておらぬ、私はただ、おまえたちの苦情を聞いて、ただすべきものは改めようと約束したにすぎぬ、それは名誉にかけて、キリスト教徒にふさわしく遺漏なきよう履行するつもりだ。だが、おまえたち謀反人は、謀反を企て、実行した以上、その行為に相当する罰を受けるものと覚悟するがいい。おまえたちが兵を起こすこと自体、浅はかというほかない、出陣してすぐ解散する愚かさには、あきれざるをえない。高らかに軍鼓を鳴らし、四散した敵に追い討ちをかけるのだ、今日無血の勝利を収めえたのはひとえに神のみ心なのだ。謀反人どもを連れて行け、行く先はもちろん、断頭台だ、それこそ反逆者の目を閉じさせるにふさわしい寝台だ。



1.
演劇や英語の専門家でなくとも、多少なりとも教育を受けた読者なら、一読して次のような疑問が浮かぶのではないだろうか。
小田島訳のみ
My lord を「大司教閣下」(他訳は「閣下」)と訳しているが、何故だろうか?

2. 「退散しました」(逍遥訳)と「退散しておりました」(小田島訳)とでは、だいぶ感じが違うがどちらが正しいのだろうか?

3. 直訳は「頚木をはずされた食肉用の去勢されたはつらつとした雄の子牛」→「自由に解き放たれた元気な子牛」だが、「子牛」を「若駒」(坪内、小田島)「若牛」(中野)としてよいのだろうか?

4. 「又は小学校の放課後という風で、めいめい家路へと、遊び場へと。」(坪内逍遥・訳)にほぼ倣った訳を中野好夫、小田島雄志もつけているが、中世に小学校があったのだろうか?

5. 逍遥訳「大監督」はともかく、lord archbishop を「大主教閣下」(中野)、「大司教閣下」(小田島)と訳語が分かれるのはどうしてだろうか?

6. 7. 「さういうことをなさって、それで公明正大といへますか?」「足下たちの暴挙が然ういへるかい?」(坪内逍遥・訳)にほぼ倣った訳を中野好夫、小田島雄志もつけているが、貴族同士がこんな売り言葉と買い言葉の応酬をするだろうか?

8. 「謀反人の正当な臥床でもあり終焉所でもある斬首台まで警護して行け」(坪内逍遥・訳)と同じく、「正当な臥床」(Treasons true bed)イコール「終焉所」(yielder up of breath)として中野好夫、小田島雄志も訳しているが、名詞の並列でないものを同格に訳せるものだろうか?

9. the block of death を、坪内は「斬首台」、小田島は「断頭台」と訳しているが、同じ意味なのだろうか?
 本当の翻訳作業は、文法力・論理力・教養力・表現力を駆使し、こうした疑問に答えることから始まる。皆さんも考えていただきたい。私の回答は次の7月下旬号で。
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